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そのオンライン診療クリニック、今月から違法かもしれません ―2026年4月の法改正で、自由診療オンライン診療はどう変わったか
はじめに
「スマホひとつで診察完了。薬を自宅に届けます」
そんな広告を、SNSやYouTubeで一度は目にしたことはありませんか?
AGA(男性型脱毛症)治療薬、メディカルダイエットと称したGLP-1受容体作動薬、ED治療薬……これらを保険外の自由診療としてオンラインで処方するクリニックは、ここ数年で爆発的に増えました。
しかし、2026年4月。その"当たり前"が大きく揺らいでいます。
今月施行された改正医師法施行規則および厚生労働省指針の改訂により、オンライン診療、とりわけ自由診療における処方のあり方に、明確な規制のメスが入りました。「うちは今まで通りやればいい」と思っているクリニックは、今この瞬間も法令違反のリスクを抱えている可能性があります。
オンライン診療の「規制緩和バブル」が生んだ歪み
そもそもオンライン診療は、2018年の厚生労働省指針策定を皮切りに段階的に解禁され、2020年のコロナ禍で一気に普及しました。2022年の指針改訂では「初診からのオンライン診療」も原則解禁され、患者の利便性は大幅に向上しました。
一方で、この規制緩和の波に乗り、問題のある診療形態も急増しました。
代表格が、AGAオンラインクリニックと肥満治療薬(GLP-1受容体作動薬)のオンライン処方です。
AGAクリニックは全国に乱立し、問診票を数分入力するだけでフィナステリドやデュタステリドが処方されるケースが頻発することとなりました。中には医師が1日に数百件の「なんちゃって診察」をこなしているとも言われ、診療の実態があるのか疑わしいサービスも登場しました。
GLP-1受容体作動薬については、本来は2型糖尿病の治療薬であるセマグルチドやリラグルチドを「メディカルダイエット」と銘打ち、ダイエット目的で処方するクリニックが急増しましたが、供給不足による本来の糖尿病患者への影響が社会問題化し、2024〜2025年にかけて厚生労働省が繰り返し注意喚起を行いました。
2026年4月改正の主なポイント
今回の改正は、厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の大幅改訂と、それに伴う運用ルールの明確化が柱です。主な変更点は以下の通りです。
① 自由診療における「診察の実態要件」の厳格化
オンライン診療において、診察の実態が確保されていることの記録・保存が義務付けられました。問診票への回答のみで処方するような形式的な診察は、「診察」と認められないリスクが生じます。ビデオ通話による診察時間、医師が確認した内容、処方根拠の記録が求められるようになりました。
② 特定薬剤のオンライン初診処方の制限
依存性・乱用リスクのある医薬品に加え、「適応外使用が問題化している医薬品」に該当するものについて、初診からのオンライン処方が実質的に制限されました。GLP-1受容体作動薬の肥満目的処方はこの区分に含まれる可能性が高く、クリニックには対面診察または過去の診察記録の確認が事実上求められます。
③ 広告・勧誘規制の強化
「◯◯円で処方」「当日届く」「問診だけでOK」といった表現が、誇大広告・不適切勧誘として規制対象になりました。特にSNS広告で費用対効果を強調するような表現には慎重な対応が必要です。医療機関のウェブサイト・SNSの表現が従来以上に厳しくチェックされます。
④ 処方量・処方間隔の基準明確化
AGA治療薬については、初回処方量の上限と、次回処方までに必要な経過確認の頻度が明示されました。「3ヶ月分一括処方」のような形態は、適切なフォローアップが担保されているかどうかが問われます。
AGA治療への具体的な影響
AGA治療は、男性の約3人に1人が悩む身近な症状で、オンライン診療との親和性が非常に高い分野です。しかし今回の改正により、「適切なオンライン診療を提供するクリニック」と「形式だけのクリニック」の差が、法的にも明確になりました。
問題になりやすいケースとして挙げられるのは、以下のような運営形態です。
医師が1人で1日100件以上の「なんちゃって診察」を行っている
ビデオ通話を行わず、チャットや問診票のみで処方している
副作用(性機能障害、肝機能障害など)のリスク説明を省略している
処方後のフォローアップ体制がない
こうした形態は改正指針のもとで「適切な診察が行われていない」とみなされるリスクがあり、行政指導や保険医登録取消の対象になり得ます。患者側から見ても、適切な診察を受けずに処方された薬を長期服用することは、健康リスクにつながります。
痩せ薬(GLP-1受容体作動薬)処方問題の深刻さ
GLP-1受容体作動薬をめぐる問題は、AGA以上に深刻です。
セマグルチド(商品名:オゼンピックなど)は、本来2型糖尿病患者のために必要な薬です。しかし「やせ薬」としての効果が広まり、美容目的での自由診療処方が急増した結果、糖尿病患者が必要な薬を入手できないという事態が全国で発生しました。
2025年時点で厚生労働省は「肥満症治療における適正使用」を強く呼びかけており、今回の改正ではさらに踏み込んで、肥満症の診断基準を満たさない患者へのGLP-1受容体作動薬の処方に対して、明確な規制的根拠が与えられた形です。
BMIが基準値を下回る患者や、生活習慣指導を行わずにいきなり薬物療法を行う形態は、今後の行政調査・立入検査において重点チェック対象になると見られています。
患者として知っておくべきこと
クリニック側だけでなく、受診する側としても注意が必要です。
以下に当てはまるクリニックは、改正後の基準を満たしていない可能性があります。
診察がテキストチャットや問診票のみで完結する
副作用の説明が一切ない、または形式的なチェックボックスのみ
薬の適応や禁忌(服用してはいけない条件)の確認がない
極端に安価で大量処方を勧める
「安くて手軽」の背景には、診察の質が犠牲になっているケースがあります。特にホルモン系・代謝系に働く薬剤は、適切な診察なしに服用すると重大な副作用が生じる可能性もゼロではありません。
信頼できるオンライン診療の見極め方
では、適切なオンライン診療クリニックとはどういうものでしょうか。
チェックポイントは以下の通りです。
1. ビデオ通話による診察が行われているか
顔を見て話すことが、診察の最低限の形です。チャットや問診票のみでの処方は、今後は認められない可能性が高まります。
2. 医師の経歴・専門性が明示されているか
皮膚科・泌尿器科・内分泌内科など、診療内容に対応した専門医が在籍しているかどうか確認しましょう。
3. 副作用説明と定期フォローアップがあるか
処方して終わりではなく、服用後の経過確認や副作用相談の仕組みがあるかどうか。
4. 広告が誇大でないか
「効果絶大」「最短翌日届く」「問診だけでOK」といった表現が多用されているクリニックには注意が必要です。
まとめ――「便利さ」と「安全性」は両立できる
オンライン診療は、忙しい現代人にとって非常に価値ある医療インフラです。通院が難しい地域に住む方、仕事や子育てで時間が取れない方にとって、スマホで完結する診察は選択肢を広げてくれます。
ただし、それは「適切な診察」が行われてこそです。
2026年4月の法改正は、「オンライン診療の利便性を否定するもの」ではありません。むしろ、粗悪なサービスを排除し、本当に患者のためになる医療を守るための改正です。
クリニックを選ぶ患者としても、クリニックを運営する医療機関としても、今一度「適切なオンライン診療とは何か」を問い直す、そういうタイミングが来ています。
便利なだけでなく、安全で信頼できるオンライン診療が広がることを願っています。
※本記事は2026年4月時点の厚生労働省指針・関連法令をもとに執筆しています。個別の法的判断については、医療法務の専門家にご相談ください。
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